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家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever:FMF)

 

家族性地中海熱とは

 家族性地中海熱(familial Mediterranean fever ; FMF)は繰り返す発熱と漿膜炎発作を特徴とする常染色体劣. 性遺伝性の自己炎症疾患です。家族性地中海熱(FMF)は MEFV遺伝子の変異によるパイリンの機能異常を背景として、炎症制御 機構の破綻により発症する遺伝性自己炎症疾患です。常染色体劣性遺伝の遺伝形式と考えられていますが、一部は常染色体優性遺伝形式を示します。
  

現状と今後について


 FMFの病型は、典型例、非典型例(不完全型)に大別され、 典型例では12 時間から72 時間持続する38℃以上の発熱発作を認めるのに対して、非典型例では発熱期間、発熱の程度(38℃以上でないことがある)が典型例と異なると今までいわれていました。これは現在診断治療に使用されている「ガイドライン2017」でも送記載されていますが、では典型、非典型の考え方が現場での診断の混乱をきたす原因となっていることから新しいガイドライン(2024年発売予定)では分類の枠を外し、「家族性地中海熱」としての見解をもとにした内容に変更される予定となっています。またこのことでFMF患者内で問題になっている典型、非典型といった分類による格差をなくし「家族性地中海熱」という同じ条件下での平等な判断や公的支援を受けることが可能になります。

 新しいガイドラインが交付されるまではガイドライン2017に基づいて診断されるため、せっかく診断がついても新しいガイドラインでは診断見直しが必要な患者が相当数出てくると予想されます。
かならず新しいガイドラインと診断フォームを確認して「本当にFMFの診断であっているか?」の見直しを行ってください


  

症状

 自己炎症疾患の中でも特に家族性地中海熱の症状は多くの自己免疫疾患や不明熱の症状に当てはまってしまいます。そのため誤診、誤解が多発していることが問題視されています。診断・治療を行っていくうえで必要なのは「家族性地中海熱」について正しい知識と情報になります。なお漿膜炎、関節炎の症状は発熱に随伴した症状(発熱に伴って起きる症状)なので、発熱発作がない時は基本的には漿膜炎による腹痛、胸痛や関節炎はおきません。家族性地中海熱は以前は「再発性多発性漿膜炎」と呼ばれていたこともあり、発熱とともに全身の漿膜に炎症が起きることが特徴となっています。一般的に「腹痛」「胸痛」「関節痛」と呼ばれることが多いので誤解されやすいですが実際はすべて部位ごとの「漿膜炎」です。家族性地中海熱の漿膜炎は炎症による浮腫みなので画像に映らない、映りにくいといった特徴があります。臨床診断が基本なので「症状だろう」と推測できても「症状」と断言するのが難しい症状となります



1:発熱
 発熱は必発の症状です。発熱がない場合は家族性地中海熱ではなく他疾患となります。突然38℃以上の高熱をだし半日から3日間程度で投薬をせずとも自然に治ります。発熱期と間欠期のメリハリがあることも重要で「メリハリがない」「1週間以上発熱が続く」時は家族性地中海熱の診断から除外されます。感染や外傷、ストレスなどが発作を誘発する事があり、女性患者では生理周期に一致することがありますが、ここ数年の研究で月経血自体にIL-1βが含めれていることで家族制地中海熱でなくても月経周期で炎症を繰り返す場合が判明し「月経周期での発熱=家族性地中海熱という安直な診断を避ける」よう警告がされています。ピル、ジェノゲストで発熱発作が起きなくなったり、軽快する場合は月経周期によるサイトカインの影響を受けているだけの可能性があるので家族性地中海熱かどうかの見直しが必要になります。

2:漿膜炎
 1)腹膜炎
非限局性(※1)腹膜炎による、腹膜刺激症状(※2)を伴う激しい腹痛が大多数の患者に認められ 1-3 日間持続し自然に軽快します。急性腹症との鑑別が困難である場合もあって虫垂炎や胆のう炎と勘違いされて切除手術を受けてしまう場合もあります。

※1:「非局限性=全体」の意味です

※2:腹膜刺激症状=筋性防御は腹腔内に炎症(虫垂炎、腹膜炎など)があると、炎症部分を押すと腹壁筋が反射的に緊張し固くなることを言います。たとえば急性虫垂炎ではよくある症状で右下腹部に現れます。家族性地中海熱の腹膜炎症状は腹腔の臓器を包む腹膜炎が炎症を起こして浮腫むことで擦れたり圧迫して痛みが起こります。圧迫されることで腹痛が起き、臓器の動きが悪くなることで便秘になります。家族性地中海熱で一番勘違いが多いのはこの「腹痛」です。正確には「腹痛」ではなく「腹膜炎症状」で漿膜炎によるものです。臓器による腹痛症状ではないので下痢、下血といった消化器症状は起きません。もし発熱に伴う腹痛で下痢、下血などの消化器症状がある場合は家族性地中海熱ではなく炎症性腸炎やクローン病、ベーチェット病といった消化器症状がおきる疾患なので診断見直しが必要です。


2)胸膜炎(※)
胸膜炎による胸痛、咳嗽や呼吸苦などの症状の他、胸水の貯留を認める事もごくまれにあります。

※家族性地中海熱の胸膜炎症状は一般的に「胸痛」とまとめられてしまいがちですが、正確には「胸部の漿膜炎」症状です。胸腔を包む胸膜が炎症をおこすことで浮腫み圧迫して擦れることで痛みが生じます。その痛みは「切り付けるような痛み」「グサグサ刺されるような痛み」と表現されることが多いです。またより強い炎症が起きると心臓を包む心膜炎にも炎症が起きることがあります。


3)関節炎(※)
 下肢の大関節(股関節・膝関節・足関節)の単関節炎を呈することが多く、炎症が終われば基本的に非破壊性で機能障害を残すことはありません。しかし長年治療を行わず炎症を繰り返している場合、年齢とともに関節への影響も出てくる可能性があるので注意が必要です。

※関節炎とありますが、関節自体の炎症ではなく漿膜(滑膜)の炎症なので正確には滑膜炎です。
滑膜が炎症を起こして腫れることで周囲と擦れるために痛みが生じますが、こちらも発熱の随伴症状なので発作が終われば自然と治ります。もし関節自体に炎症や障害が残る場合は関節炎症状が起きる他の疾患の可能性があるので診断の見直しが必要になります。


上記のほか「無菌性髄膜炎」も膜の炎症です。症状はすべて発熱に随伴したものなので、発熱発作が終われば自然と治ります。そうしたメリハリがあるため、家族性地中海熱患者は「詐病」「精神的なもの」と判断されやすく診断に結びつかないといった問題が長年ありました。

  

治療

コルヒチン
 コルヒチンは服用して血中濃度が上がり効果が出るまで2〜3時間かかり、少なくとも5〜6時間は持続します。一気に血中濃度をあげると副作用が出やすくなるので、1日6分割まで可能で服用する事で急激な血中濃度上昇を避け副作用を防いだり軽くすることが可能です。
 
有名な副作用では消化器症状(下痢・おう吐)、脱毛、白血球減少、肝機能障害、咽頭痛、蛋白尿などがあげられます。長期に渡り服用を続けていくうえでコルヒチンの副作用を確認するためにも定期的な検査、3か月ごとの効果の査定が必要になります・またこれらの副作用は服用中止や服用量を調整することで改善されます。コルヒチンに限らず、長期間服用を続けていた薬を急に完全にやめてしまう事でリバウンドの危険性があります。安全の為にも主治医と相談の上、少ずつ減薬をしていく事が望ましいと思われます。またコルヒチンの服用を始めると血液や肝臓に副作用がでていないかの確認の為に定期的な検査が必要となります。

「コルヒチンの副作用で下痢してしまう」「下痢が酷くて仕事が出来ない」そんな悩みを抱える当事者も多く切っても切れない「家族性地中海熱VSコルヒチン」問題ですが、ここ最近とくにコルヒチンの副作用が原因ではない下痢・消化器症状で悩む当事者が増えてきています。そんな当事者の声を聞いてみると「脂質が高い食品でおなかを壊す」「急に乳製品・刺激物がダメになった」「発熱発作以外でも腹痛、下痢がある」など共通する部分が多い事に気づきます。それは大腸や小腸といった消化器疾患の症状です。症状のところでも書きましたが「家族性地中海熱の腹痛は漿膜炎」が原因で下痢、下血といった症状は特殊な場合を除いてありません。「消化器は臓器」「漿膜は組織」です。
そこの部分での誤診が非常に増えているので、もし家族性地中海熱と診断されて下痢、下血などの消化器症状がある場合は診断見直し、炎症性腸疾患などの識別が必要になります。

※「効果あり」とは発熱発作がなくなることを意味します。非典型例ではなかなかそこまでの効果を得るケースが少ないため実際には「少し発作期間が短縮した」「今まで39℃以上でていたのに38℃台になった」等、少しでも良い方に変化があれば本来期待される効果でなくても「効果あり」と判定され服用継続となります(今後変更あり)


イラリス
抗IL-1β製剤「イラリス(カナキヌマブ)」は、コルヒチンの補助薬という位置です。他の生物学的製剤に比べ、ヒト由来の薬剤のため副作用は少なく、抗体ができにくいので一度中断しても再開できるといわれています。イラリスを導入してもコルヒチンを中止することは、アミロイドーシス予防のためにお勧めできません


   

予後

SAAが抑制できないとアミロイドーシス(AA)を発症し、多臓器不全に陥ります。日本人は民族的にアミロイドーシスを発症しにくいと言われておりコルヒチンの服用が必須となります。
   

妊娠・出産

妊娠中のコルヒチン服用に関して、海外の文献ではダウン症をはじめ発生率には大きな差はないと報告されています。逆に妊娠中に発作を起こすと腹膜炎の炎症の影響で流産したり、炎症が原因で癒着が起こり妊娠しにくくなる事もある為、妊娠中もコルヒチンの服用を推奨しています。なおFMF当事者の女性の妊娠出産は年齢状態問わずハイリスク扱いになるため大学病院での出産が望ましいとされています。主治医とよく相談し、実際の発作状況や母体と胎児への影響を考慮した上でどうするか考えることが大切です。

研究班発表のガイドラインでも「妊娠中もコルヒチンの服用を推奨する」となっています。

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