本文へスキップ

TNF受容体関連周期性発熱症候群(TRAPS)

 

TRAPSとは

 TRAPSはI型TNF受容体(TNFRSF1A)遺伝子変異が原因と考えられる自己炎症疾患です。近年、国内外で注目されている自己炎症性症候群の一つであり、発熱、皮疹、筋肉痛、関節痛、漿膜炎 などを繰り返し、時にアミロイドーシスを合併する事もある疾患です。全身型若年性特発性関節炎や成人スチル病と症状 が類似しており、鑑別が重要となります。発症年齢は平均10歳、中央値3歳ですが、1歳から63歳までの幅があると報告されています。症状の似ている疾患として全身型若年性特発性関節炎(systemic JIA)・成人スティル病・ベーチェット病があり、鑑別することが大切です。日本では5家系15例の報告があり、世界全体では100例以上の報告があります。

TRAPSは2015年2月より指定難病となり、公費助成対象となりました。
小児患者さん、成人では臨床診断と遺伝子変異が疾患特有の部位にあり確定診断が下りた方が「TRAPS」として申請が可能です。
  

原因

 1999 年に責任遺伝子として TNF 受容体1型が同定されています。常染色体優性遺伝形式をとるものの、本疾患の浸透率は 70〜80%であり、家系内に同一変異を有しながらも無症状のものが存在し、重症度のばらつきも認められます。このため、家族歴が明らかでないということのみで本症を否定できないことに気を付ける必要 があります。
 TRAPSでは、I型TNF受容体異常にTLR刺激が加わる事で、IL-1、IL-6、TNFα/βなどのサイトカイン産生が亢進し、過剰な炎症が持続します。日本では、C30R、C30S、T61I、C70S、C70G、C88Y、N101Kの7種類の遺伝子異常が報告されています。この中で、T61I変異は健康な人の約1%とSLE患者さんの約1%に認められ、TRAPSの症状は軽く、他の疾患を合併していることが多いようです。R104Q変異はSLE患者の約2%に認められ、TRAPS患者では変異が認められていません。多くの患者さんではI型TNF受容体の遺伝子異常が原因となってTRAPSを発症し、家族歴を有します。一方で一部の患者さんではI型TNF受容体の遺伝子異常が認められません。これらの患者さんでは家族歴が認められないことが特徴で(孤発例と呼びます)発症の原因はよくわかっていません。
  

症状

 典型例は幼児期に発症して3日間〜数週間と比較的長い期間にわたる発熱発作を平均5〜6週間の間隔で繰り返します。随伴症状として筋肉痛、結膜炎や眼周囲の浮腫などの眼症状、腹痛などの消化器症状、皮膚症状などがあります。皮膚症状では、圧痛、熱感を伴う体幹部や四肢の紅斑が多く、筋肉痛の部位に一 致して出現し、遠心性に移動するのが典型的とされます。

1:発熱 
患者さんのほぼ全例に認められます。発熱期間は平均3週間(1~4週間)で発熱の間隔は1〜数カ月と言われています。

2:腹痛 
患者さんの約75%に認められます。吐き気や便秘を伴うことがあります。

3:移動性の筋痛
患者さんの65%に認められます。筋炎というよりは筋膜炎による痛みと考えられており、CKの上昇は認められません。

4:皮疹 
患者さんの約55%に認められます。筋痛に一致して皮疹を認めることが多いようです。

5:眼症状 
患者さんの約50%にみられ、結膜炎・眼窩周囲浮腫・ぶどう膜炎が多いようです。頻度は少ないですが、上強膜炎や眼窩蜂巣炎が認められることもあります。他の自己炎症疾患と鑑別するうえで重要な症状です。

6:胸膜炎 
患者さんの約30%に認められます。針で刺すようなチクチクとした痛みが特徴で、呼吸や体位によって増悪します。

7:関節痛・関節炎 
患者さんの約50%に認められます。関節の変形や破壊はなく、膝関節や股関節などの大きな関節に起こることが多いようです。

その他、心外膜炎・頚部リンパ節腫脹・咽頭炎・扁桃炎・神経症状・血管炎など、多彩な症状を呈します。

  

誤診されやすい疾患

 誤診されやすい疾患で一番多いのは線維筋痛症です。他に全身型若年性特発性関節炎や成人スチル病、SLEなどがあります

  

症状を誘発するもの

炎症を誘発するとされるものには以下のものがあります
1:精神的ストレス
2:身体的疲労
3:日光刺激

      

診断

 一般的な血液検査で、白血球増多(好中球増多)、CRP上昇、赤沈亢進、補体(C3, C4, CH50)上昇、IgA高値などが認められます。CK(クレアチンキナーゼ)の上昇は認められません。臨床症状と併せてTNFR1遺伝子変異が認められた場合は、TRAPSと確定診断されます。遺伝子変異を認めない場合でも、血中TNFα増加や可溶性TNFRSF1A/ TNFRSF1B比低下などの所見を認めた場合は、TRAPSと診断されます。
              

治療

 発作早期にプレドニゾロン(PSL)を開始し、症状をみながら減量して7〜10 日間で終了する方法が推奨されています。しかし発作を繰り返すごとに効果が減弱し、増量が必要となったり、依存状態となる症例が報告されています。他に非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)は発熱、疼痛の緩和に一定の効果が期待されます。難治性症例やステロイドの限界量を超えている症例には、抗 TNF 製剤(エタネルセプト)や 抗IL-1β製剤カナキヌマブ(イラリス) が適応となり発作の消失例が報告されています

1:プレドニン(一般名プレドニゾロン):副腎皮質ステロイドと呼ばれる薬です。発熱発作に対して非常に高い効果がありますが、発熱発作を予防することはできないようです。発熱発作が起こった時に、プレドニンを1mg/kg/日より開始し、7〜10日かけて減量するのが一般的です。副腎皮質ステロイド一般に言えることですが、急に服薬を中止すると、病気が悪化したり薬の副作用が現れるので、必ず医師の指示通りに使用してください。

2:イラリス(一般名カナキヌマブ):IL-1受容体拮抗薬と呼ばれる薬です。2016年12月に保険適応されました。それまではエンブレル、レミケード、アクテムラといった生物学的製剤が使われていましたがイラリスの登場でステロイドに次ぐ選択肢となりました。

3:エンブレル(一般名エタネルセプト):TNF阻害薬。発熱発作に対して効果があるだけでなく発作の頻度を減少させるため、イラリスが登場するまでTRAPSの特効薬として使用されていました。成人では25mgを週に2回投与します。副作用として結核などの感染症にかかりやすくなるため、感染予防に努め定期検査を行います。

4:レミケード(一般名インフリキシマブ):TNF阻害薬

5:アクテムラ(一般名トシリズマブ):IL-6受容体拮抗薬

6:ネオーラル(一般名シクロスポリン)、プログラフ(一般名タクロリムス):免疫抑制剤の一種で、T細胞の働きを抑えます。TRAPSで効果があったとの報告があります。

※一般的にコルヒチンに対する反応性は悪く、家族性地中海熱との鑑別において診断の手掛かりになります。

 


                   

治療薬


最も重要な合併症はアミロイドーシスで約 15%に認められます。その他、筋膜炎、心外膜炎、血管炎、 多発性硬化症などの合併が報告されています
                       

ナビゲーション